唐・天竺の青いケシ
花を求めて 唐・天竺を駆け巡る

2年前(2013年)、初めて青いケシに出会い、その魅力に取りつかれて以来、すっかり中毒に(青いケシには麻薬成分はありません、念のために)。
今年は中国四川省、雲南省そしてインドのアルナーチャル・プラディッシュ州へ出かけ、20種類以上の青いケシ((メコノプシス属)を堪能してきました。メコノプシス属には青い花をつける種類だけでなく、黄色や赤色の花弁をもつ種類があり、これらの花々は標高4000mを超す山々で見られます。

 メコノプシス・グランディス(オリエンタリス)

幸福の国、ブータンの国花。この花には2種類の亜種があり、オリエンタリスはブータン東部、インドとの国境地帯に生育します。
灼熱のインド・アッサム平原を走り、煙霧のアルナーチャルの山々を抜け、標高4200mのセラ峠を越えてやっと出会えました。
生憎、ずっと雨にたたられ通しでしたが、水も滴る?三姉妹に会えました。

(インドアルナーチャルプラディッシュ州バンガジャン 標高4500m)
 
メコノプシス・インテグリフォリア 
 
青いケシとは言いよう、この花のように黄色いメコノプシスや
赤い種類(M.プニケア)があります。 最初にメコノプシス属に
命名されたのがヨーロッパ自生のMカンブリアで、これも
黄色でしたが、現在はメコノプシス属から外されています。
寒冷地に咲くメコノプシスには花弁を開花しないものが多く
ありますが、これは風雨から雌蕊や花粉を守るためです。
では、受粉はどうするか…花弁を閉じることで、中が温室
状態になり、その温かさで虫を誘います。閉じた花弁に
指を入れて、開いてみると中に蜂やハエが潜んでいます。

ここは、九寨溝飛行場から世界遺産黄龍に行く途中の峠道。
標高4200mの観光道路で、観光客を乗せたバスがひっきり
なしに通過しています。峠の向こう側には標高5588mの
雪宝頂が峰を連ねています。

     (中国四川省 黄龍への峠道)
 メコノプシス・シノマクラータ
 この花はよほど天気が良くないと開花しません。でも、閉じた花弁は虫たちに避難所(避寒所)を提供し、代わりに受粉を手伝ってもらいます。
メコノプシス・プニケア
左のM.シノマクラータと混成していました。赤いメコノプシスはこの花だけですが、ピンクやワインレッドのメコノプシスもあります。 
 メコノプシス・プシロノーマ

強い風が通り抜ける峠では草も大きく伸びず、
低い草や藪ばかりですが、地面からポツンと
首をもたげて、あたりをうかがっているよう。
少ない栄養を分け合っているように、他の花
から距離を置いてしか咲きません。

(四川省黄龍の峠)

黄龍への峠道

 中央の山が雪宝頂(5588m)  

その左下に黄龍の谷が伸びる。
峠道は舗装され 観光バスがひっきりなしに通る。現在トンネルを掘削中で、完成すると新幹線が通る。

高山病の危険がある峠道を超えてゆきますが、これらの道は昔、ラマ僧や巡礼者が聖地を目指して徒歩で越えた道でもあります。

汝(な)は法(のり)を 我は華(はな)を 求めんと 青き峰々なお超えて 唐天竺を駆け巡る


メコノプシス属は一般に3500m以上の比較的乾燥したが高地に咲きますが、生育環境は、上記のような平原あり、ガレ場あり、林間ありと様々です。
雲南省麗江の北、金沙江(揚子江上流部)に沿ってそびえる百花山や石卡(シーカー)雪山の頂上部(標高4250m)では、石灰石が崩壊したガレ場で根を地下深く伸ばして懸命に咲いていました。

 
 メコノプシス・ルディス

葉にも鋭いトゲをつけています。
水の少ないガレ場では極力
水分を放出しないことが生き延びる
秘訣です。

(百花山 標高4200m)
 メコノプシス・ベヌスタ  メコノプシス・プセウドベヌスタ
 荒涼としたガレ場でポツンと咲いています。
(百花山 標高4200m)
プセウド(psedo)とは「似たような」という意味の
ラテン語。生育環境は似ていますが、花弁の数や
葉の形は異なっています。
(石卡雪山 標高4200m)
 メコノプシス・ランキフォリア

一つの根から5,6本の茎が立ち上がり、
それぞれに花を一つつけます。
風が強いとこでは茎は長く伸びません。

(石卡雪山)

   メコノプシス・コンキンナ
   
   花丈が15㎝程の小型のメコノプシスで、
ガレ場の中でも少し湿気のある草付きに根を
下しています。

(百花山 ガレ場の下部)
   


ガレ場ではこんな珍しい花にもお目にかかれます。

   フイテラリア

(石卡雪山 標高4200m)
   

一方、林間に咲くメコノプシスは湿ったところが好き。一番上のM.グランディスも渓流の中で咲いていました。

   メコノプシス・ベトニキフォリア 

花丈100~150㎝すらりとした姿は
八頭身美人。
澄み切った青色に薄い
ピンクが入った花弁はあでやかです。
 
 葉が茎を包んでいる(托葉)のが特徴。

同種のメコノプシスにチベットのセチラ峠でみられるM.バイレイが
あります。(以前はこのM.バイレイもベトニキフォアとされていました)
チベット行きも計画の中にあったのですが、ツアー成立に必要な
人数が集まらず、中止となりました。
ちなみにM.バイレイは、20世紀初め、初めてツアンポー大湾曲部を
探検して、ヤルン・ツアンポー河がプラマプトラ河の上流部である
ことを発見した英国軍人 バイレー大佐に因んでいます。

(いずれも雲南省老君山)
 
  メコノプシス・ムスキコーラ

一般的に、メコノプシスをはじめとするケシ化の花は、野原やガレ場など比較�日光のの当たるところに咲きますが、この花は水気の多い林床に咲きます。花丈が30~40㎝と。上のベトニキフォリアに比べて、ずっと小さい花です。

(雲南省老君山  標高3800m)
 
 メコノプシス・クィンテュプネルビア

舌をかみそうな名前と違って、森の妖精の
ようなかわいい姿です。花丈が20~30㎝
なので、森の小人かもしれません。

  (四川省黄龍五彩池)
 
 メコノプシス・デラバイ

氷河が削った谷でわずかに土壌の積もった
谷底と斜面の間の狭い範囲で生育します。
デラバイは雲南省北西部のメコン川沿いで
布教活動を行ったフランス人宣教師、デラビー
に因んでつけられました。彼は植物の標本を
多数集めており、野生のボタンにも彼の名が
ついています。

(雲南省麗江 玉龍雪山)
 
  メコノプシス・フォレスティー

同じ林間でも、日当たりのよい丘の上で育ちます。
若芽はヤギに食べられてしまうので、藪(ブッシュ)
の間に生える個体しか見られません。
花丈50㎝程の茎に3~4個の薄青い花をつけます。
花糸が鮮やかなブルーです。
名前は英国人プラントハンターのJ・フォレストに因んで
名付けられました。

(雲南省麗江 玉龍雪山)
 
    
    
    メコノプシス・ベラ

岩から水が滴る場所に生えています。
「ベラ」は「美しい」という意味。まさに、
水も滴る・・・といったところでしょうか。

(インドアルナーチャルプラディッシュ州
 標高4500m)
   
     メコノプシス・プライニアナ・ルテア

茎や葉には鋭い棘があります。霧をしっかりとらえて、水分を確保するほか、牛やヤクに食べられないよう身を守る手段になります。この花丈は50㎝ほどです。
セ・ラ(峠)の門の近くに咲いていました。

(インドアルナーチャルプラディッシュ州 セ・ラ
 標高4200m)
 
      メコノプシス・スルフレア

スルフレアはサルファ(硫黄)です。黄色から
連想して付けられた名前です。


(雲南省老君山 標高3800m)
     
 
     メコノプシス・パニクラータ

花丈が2mを超す大型の青いケシ属(花は黄色ですが)
植生域は広く、チベットからブータン・ネパールにかけて分布します。

(インドアルナーチャルプラディッシュ州 バンガジャン
 標高4500m)
 
   

このほかにも、メコノプシス・シンプリキフォリア、メコノプシス・シヌアータなどがありましたが、いい写真が撮れませんでしたので割愛します。

プラマプトラ川の夕陽

  帰路、グアハティで一泊、プラマプトラ河へ遊覧に行きます。
川岸には火葬場があり、日が沈むと火葬の火が赤々と川面に映っています。 

(インド グアハテ)

赫々(あかあか)と 遺骸(ひと)焼く焔 川面(おも)に映え プラマプトラ河に 夕陽(ひ)は沈みぬ

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2016.8.12 upload