仕舞「熊坂のご案内

ここ2年は「杜若」や「竜田」という女性(もしくは精霊や神が現す姿)の能、舞囃子を演じましたが、今年はがらっと変わって、むくつけき男、それも大盗賊「熊坂長範」です。もともとは牛若丸の武勲譚のお話ですが、敵役の熊坂を主役にした構成です。飛んだり、跳ねたりのチャンバラで、幽玄さとは程遠い仕舞です。お楽しみください。

日時 2010年9月23日(木・祝日) 午前11時30分から
場所 東京都新宿区矢来町60 矢来能楽堂
地下鉄東西線神楽坂駅2分、都営大江戸線牛込神楽坂駅5分
地図 下の図、またはここをクリック
演能時間 約10分
ご注意 入場は無料です。
写真を撮る際はフラッシュやストロボをを焚かないでください。
ドレスコードはありませんので、気楽な服装でおいでください。
お出での節は10分ほど前にご入館、ご着席ください。
あらすじ
時代は平安時代後期、源平の戦いの頃。牛若丸が金売り吉次と奥州に下る途中、赤坂の宿(岐阜県大垣市)で熊坂を首領とする盗賊に襲われます。しかし、天狗に武術を習った牛若丸の獅子奮迅の活躍で盗賊は退治されてしまいます。熊坂は長刀(なぎなた)を振り回し、牛若丸と一騎打ちをしますが、最後は後ろから切られてしまいます。
 
 昨年(2009年)10月に金春穂高師が奈良東大寺で演じた「熊坂」から

矢来能楽堂 地図

謡詞(仕舞の部分のみ)

シテ 機嫌なよきぞ、早や、入れと
 
地謡 言うこと程も久しけれ。言うこそほども久しけれ。
 
皆われ先にと松明(たいまつ)を、投げ込み投げ込み、乱れ入る。
勢いは、ようやく神(じん)も面(おもて)を向くべきようぞなき。
しかれども牛若子、すこし恐るる景色(けしき)なく、小太刀を抜いて渡り合い、
獅子奮迅(ふんじん)、虎乱入(こらんにゅう)、飛鳥の翔(かけ)りの手を砕き、攻め戦えばこらえず、
表に進む十三人、同じ枕に斬り伏せられて、そのほか手負い太刀を捨て、
具足(ぐそく)を奪われ這(ほ)うほう逃げて、命ばかりを逃るもあり。

熊坂言うよう、この者どもを手の下に、討つはいかさま鬼神(おにがみ)か、人間にてはよもあらじ。
盗みも命のありてこそ、あら、枝葉(しよう)や引かんとて、
長刀杖に突き、うしろめたくも引きけるが、

シテ 熊坂、思うよう。
 
地謡 熊坂、思うよう。ものものしその冠者(かじゃ)が、斬るというともさぞあるらん。
熊坂、秘術を奮うならば、いかなる天魔鬼人なりとも、
宙(ちゅう)に掴(つか)んで微塵(みじん)になし、
討たれたる者どもの、いで孝養(きょうよう)に報(ほう)ぜんとて、道より取って返し、
例の長刀引き側(そば)め、折り妻戸(つまど)を小楯(こだて)にとって、
かの小男を狙いけれ。

牛若子はご覧じて、太刀抜き側(そば)め、物間(ものあい)を少し隔てて待ち給う。

熊坂も長刀構え、たがいにかかるを待ちけるが、
苛(いら)って熊坂、左足(さそく)を踏み、鉄壁も通れとつく長刀を、
はっしと打って弓手(ゆんで)へ越せば、追っかけ透(す)かさず込(こ)む長刀に
ひらりと乗れば刃向(はむ)きになし、退(しさ)って引けば馬手(めて)へ越すを、
おっ取り直してちょうど斬れば、宙にて結ぶを解(ほど)く手に、
却って払えば飛び上がって、そのまま見えず形も失せて、
ここやかしこと尋ねるところに、思いも寄らぬ後ろより、具足の隙間(すきま)をちょうど斬れば、

こわいかに、あの冠者に、斬らるることの腹立ちさよと、
いえども天命の、運の極(きわ)めぞ、無念なる。