名も知らぬ島と呼ばれ、明治以後は日本本土(mainland Japan)に翻弄され続けてきた沖縄・八重山。辺境かつ苛烈な環境が豊かな自然を残してきた。今、温暖化と開発、そして観光オーバーユースで自然がどんどん劣化している。
本州の花が終わった11月中旬から、まだ早春の花が開かない3月にかけて、緊急事態宣言の合間を縫って花を求めて訪ねた。今回は、草の花を中心に紹介します。

   南西諸島図

(クリックすると拡大します。
与那国町教育委員会編)
鹿児島県大隅半島から台湾にかけて、屋久島、奄美大島、沖縄本島、宮古島、石垣島・西表島そして日本最西端の与那国島と点々と島々が弧状に連なる。これらの島はかつてアジア大陸(ローラシア古大陸)の東岸であったが、2000万年前のインド亜大陸の衝突で、大陸から分離し始め、2万年前に現在の形となった。島嶼全体は南西諸島(地理学では琉球弧)と称されているが、種子島から奄美大島にかけては薩南諸島(鹿児島県)、沖縄島から与那国島までを琉球諸島(沖縄県)に分けられ、更にその中も、沖縄諸島、先島諸島(宮古列島、八重山列島)と細分されている。
大隅半島の先端から与那国島までは約1160kmあり、東京-博多間の距離に等しく、日本の全長約3000kmの3分の1に相当する。沖縄県だけでも全長は630kmあり、これは東京都(1130㎞)に次ぐ長さだ。これだけ離れると、北部の沖縄本島と与那国島では全く天候が異なり、一方が土砂降りでも他方は晴天といった具合。また、島に山があるかどうかで降雨量は変わり、高山のある石垣島や西表島には熱帯雨林がある半面、その隣の竹富島は乾燥した気候と、変化は大きい。また、島々が大陸から分離して以来一度も他の陸地と地続きになっておらず、多雨温暖の亜熱帯性気候や黒潮の影響もあり、植生は豊かで、多くの固有種が見られる。その中には(ヒマラヤが隆起する以前からあった)大陸と関連の深い植物もある。花々はこうした環境下では変異し、分布する地域により、「琉球~」「先島~」「西表~」などのローカル名が冠される。 
 テッポウユリ(鉄砲百合:ユリ科)(Lilium longiflorum)(与那国島サンニヌ台/3月末)
  
九州南部から南西諸島全般の海岸近くに自生し、琉球弧を代表するユリ。明治時代、球根が欧米に輸出され、チューリップバブルにも似たブームを起こす。欧米で聖母マリアの象徴とされるマドンナ・リリー(Lilium candidum)の代用として珍重されたため。特に、北部の沖永良部島産は「エラブユリ」と呼ばれ、年間1000万個以上輸出したが、その一方ブームは生産者と買付業者の間で軋轢を生み、三菱商事も絡む「百合騒動」を引き起こした。太平洋戦争で栽培は一旦途絶えたが、戦後、復活した。1970年代には年間5600万個が栽培されたものの、輸入国での自国生産などにより現在は200万個程の栽培となっている。
実は本州にもこれに似た花がある。花の形はそっくりだが、花弁の裏に薄紫の筋が入る。また、丈は1m以上になり、葉も細長い。台湾の固有種、タカサゴユリ(Lilium formosanum)がイギリスへ渡り、そして園芸種として日本に入ってきたもので、野生化して荒れ地や道路わきでよくで育つ。他のユリとの交雑も見られ、侵入植物として駆除対象となっている。
                 (写真はhttps://botanicaljapan.comから拝借)
「沖縄のユリ」といえば、「ひめゆりの塔」からヒメユリ(Lilium concolor)を思い浮ぶが、沖縄にはこの朱色の花はない。「ヒメユリ部隊」の名は、母体となった2校の女学校の校誌「乙姫」「白百合」から採られたという。代わりに黄色いキバナノヒメユリ(Lilium callosum var. flaviflorum)があるが、どちらも絶滅危惧の希少種である。
  
沖縄はランの宝庫。特に中央部に高い山のある石垣島(沖縄県の最高地点・於茂登岳536m)や西表島(古見岳469m)沖縄本島北部やんばるの森(与那覇岳503m)には大量の雨が降り、ジャングルには野生ランが繁茂する。一年中、何かしらのランが見られる。
  カクチョウラン (鶴頂蘭:ラン科)
(Phaius tankervilleae)

丈は1mにもなる大型のラン。種子島以南に分布。
下部より1、2個づつ開花し、受粉すると咢を閉じる。
林道際など人の手の入ったやや明るい場所に咲く。
鶴が飛ぶところを見立たものだが、どんな鶴であったろうか。

           (西表島大富林道/3月末) 
     タイワンエビネ(台湾海老根:ラン科)
(Calanthe formosana)

「タイワン」の名の付く花は多い。西表島は台北より南に位置し、与那国島から最も近い陸地は台湾で、晴れた日にはその山々が望める。古代人が黒潮を乗り越えて渡ってきた実証実験プロジェクトもある。
風に乗って、鳥に運ばれて、潮に揺られて多くの種子が台湾から渡ってきた。
タイワンホトトギスなど野生では台湾と西表島でしかみられない植物もある。

(西表島横断道/11月中旬)
 ナリヤラン(成屋蘭:ラン科) (Arundina graminifolia)

園芸種のカトレアに似た色鮮やかな蘭だが、地面から直接生える地生ラン(カトレアは着生ラン)。陽の良く当たる斜面や草地で生育する。インドからミャンマー、東南アジア、ニューギニア、そして琉球諸島と広く分布する。野生化した花はハワイや西インド諸島でも見られる。
和名は西表島西部の内離島の成屋集落で採取されたことから名づけられた。現在は廃村だが、戦前は炭鉱があった。
                   (西表島大富林道/11月中旬) 
6年前、青いケシ探索にインド・アルナーチャルプラディッシュ州へ行ったとき、この花を見た。標高3500m、南向き斜面に数株咲いていた。
         
 
      コウトウシラン(紅頭紫蘭:ラン科)
(Spathoglottis plicata)

ナリヤランと同様、アジアに広く分布する。明るい場所を好み、ナリヤランの近くで咲く。和名の「紅頭」は花の色や形でなく、台湾南部の紅頭嶼に産したため。これは11月に見たものだが、3月末でも咲いていた。

(西表島大富林道/11月中旬)
   
 カゴメラン(籠目蘭:ラン科) 
 (Goodyera hachijoensis var. matsumurana)

上記と異なり、地味系のランで、シュスラン属の特徴である小さな花を穂状につける。この系統のランはミヤマウズラのように花より葉が珍重される。籠目の名が示すように、筋目の入った翡翠色の葉は暗い林床の中でもひときわ輝いて存在をアピールする。英語名はジュエリーオーキッド。

                   (西表島横断道/11月中旬) 

 
      ユウコクラン(幽谷蘭:ラン科)
(Liparis formosana)

更に地味なのがクモキリソウ属の小型ラン。暗い林床や岩の間にひっそりと目立たず咲くので見つけにくい。しかし、花の形には特徴があり、この仲間にはジガバチソウ、スズムシソウなど昆虫に模した姿をするものが多い。紫花と緑花がある。

(西表島横断道/3月下旬)
   
 イリオモテトンボソウ
 (西表蜻蛉草:ラン科)
 (Platanthera stenoglossa subsp. iriomotensis)

本州では高山の湿地や渓流沿いに育つトンボソウだが西表島では何と塩水のかかる海岸の岩でも咲く。周囲にはモウセンゴケやコケ類がびっしりと付く。それだけ湿度が高いということだ。

(西表島の河口/3月下旬)
 
イリオモテラン(西表蘭:ラン科) (Trichoglottis ionosma)(西表島/3月下旬)
西表島と石垣島の固有種であるが、乱獲・盗掘により西表島では見られなくなった。石垣島に1か所、自生地があると聞く。別名にニュウメンラン(入面蘭)があるが、その由来ははっきりしていない。明治の探検家、笹森儀助が調査した際、「いりおもて(西表)」の音を「入(イリ)面(オモテ)」(ニュウメン)と誤って記したことからという説が有力である。台湾ではこの種を 「豹紋蘭」と称しているが、むしろ原住民の顔の入れ墨のようにも見える。この写真は植栽。
                                           
この他のランについてはここをクリック

 西表島東部の大原から西の浦内まで島の中央部を川に沿って横断する道がある。北部海岸沿いに道路ができるまでは島の唯一の幹線道路であった。横断道の周辺が野生ランの宝庫で、以前は途中で小屋もあり、2日間かけてゆっくり探索ができたが、西表島の世界自然遺産登録推進のためキャンプが禁止され、核心部でのラン探索は事実上不可能になった。現地ガイドは複雑な思いでこの運動を見ている。(奄美大島、やんばるの森、西表島がユネスコ世界自然遺産に登録されることが決まった。自然のオーバーユースとその規制が心配だ)
西表島はかつてはマラリアの巣窟で、入植した村が廃村になることも多く(特に、戦争末期の強制移住では3600人を超す死者が出た)、人の住まない島であった。この伝染病が、奄美大島のハブ同様、島の自然を人の手から守ってきた。猛威を振るっている新型コロナも、外出自粛や温暖化防止対策などで自然を守っているのかもしれない。 

ユリやランと並ぶ単子葉植物に、根が食品や生薬になるショウガがある。仲間のひとつ、ハナミョウガ属は根より花だ。
←西表島古見


与那国島の農道
      →

いずれも3月末
  ゲットウ (月桃:ショウガ科)(Alpinia zerumbet)
蕾の先がピンクになるところが桃に似ているとこの名がついたが、白い肌、ふくよかな曲線、そしてピンクの乳首となんとも官能的な花だ。16世紀イタリア人画家、ティツィアーノ作の「ウルビーノのヴィーナス」を彷彿とさせる。
沖縄では冬至の頃、ムーチー(餅)をこの葉で包んで蒸し、縁起物として食べる。
沖縄にはこの仲間のイリオモテクマタケラン(西表熊竹蘭)、アオノクマタケラン(青の熊竹蘭)、クマタケランが見られる。花が付いていないと区別できないほどよく似ている。
                       (クマタケランの仲間についてはここをクリック
 
これが花?これでも花!というのがウマノスズクサ(馬の鈴草)属(Aristolochia)。鈴をつけた馬の顔に見立てたものだが、名前からして奇妙だ。日本には7種類ほどあるが沖縄では3種がみられる。花弁状に見えるものは咢で、臭いにつられて入ってきたハエを閉じ込めて花粉を背につける。脱出したハエが花粉を媒介する。
← リュウキュウウマノスズクサ  (琉球馬の鈴草)
 (沖縄本島やんばるの森/12月)



  アリマウマノスズクサ →
   
(有馬馬の鈴草)
   (西表島大富林道/3月末)

アリマウマノスズクサは牧野富太郎が神戸・有馬温泉近くで見つけたことから名がついた。

もう一種はコウシュンウマノスズクサで、宮古島に産する。

ウマノスズクサにはカンアオイ属(Asarum)という従姉妹がいる。同族らしく、これも奇天烈な姿である。アリやダンゴムシなど飛ばない虫に花粉を運ばせるため、花は地表に咲く。
   エクボサイシン(笑窪細辛)

茎の根元に一輪。

(西表島横断道/3月末)
   
     ヤエヤマカンアオイ →
    (八重山寒葵) 

ガイドさんが執念で見つけた一株。岩場の高い所で咲いていたため、背伸びして何とか撮ったが、草の根が邪魔して全体が見えない。
西表島の固有種。

(西表島/3月末)
  

     
このウマノスズクサのように動物(哺乳類や鳥類)の名をつけた植物和名は多い。ウマノアシガタ(キンボウゲ科)やコマクサ(ケシ科)、サギソウ(ラン科)、のように形が似ているからだが、どうしてそんな名がついたのか想像できない名もある。その一つが、キツネノマゴ。科(Acanthaceae)を構成していて、世界には230属3600種ほどある。最大の属がキツネノマゴ属(Justicia)で多くは熱帯地方で見られ、700種ほどあるが、日本では数種しかない。琉球諸島にはその仲間がいる。 
  キツネノメマゴ (狐の女孫)
(Justicia procumbens var. riukiuensis)
   
キツネノマゴより小さいのでこの名がついた。他に同じような大きさのキツネノヒマゴ(曾孫)がある。 キツネノマゴは本州、メマゴはトカラ列島以南の南西諸島と、分布が異なり、棲み分けている。
キツネノマゴの名は、花穂が狐の尻尾のように見えるからとか、狐のママコナ(飯子菜)が訛ったとか言われているが、はっきりしていない。ただ、キツネノコという植物はない。
   
   (与那国島東崎(アガリザキ)/3月末)
 
アリモリソウ
  (有盛草)
(Codonacanthus pauciflorus)
  
渓流沿いの湿った場所に咲く。田代安定が奄美大島の有盛古墳の近くで採取したためこの名がついた。

(西表島ユチンの滝/11月中旬)
    タイワンサギゴケ(台湾鷺苔)
 (Staurogyne concinnula)

本州にあるサギゴケ(Mazus miquelii)はゴマノハグサ科で本種とは異なる科である。 
                  (西表島横断道/3月末)
野生のキツネノマゴの仲間は、花の大きさはいずれも5~6mmと地味であるが、これが園芸種となると途端に変身する。目立たなかった女性が化粧(最近は美容整形)してアッと驚くような姿・形になったみたい。
   
   ツンベルギア・エレクタ
(木立矢筈葛)
(Thunbergia erecta)

アフリカ原産の園芸種。沖縄では生垣として植えられている。
花の径は4㎝にもなり、喉は黄色い。

(石垣島白保/11月中旬)

赤道に近づくほど季節の日照差や温度差は少なくなり、季節要因が薄まる。お陰で花たちも冬になる前に種を残さなくては、という切迫感を失い、時間にルーズになり、のんびり、だらだらと咲く。まるで定年退職後の生活のようだ。反対に、季節感DNAを失った(ハイビスカスやランタナなど)熱帯起源の花は、環境が許せば高緯度地方の冬でも花をつける。

 (沖縄本島やんばるの森/12月中旬)
 
  ヘツカリンドウ (辺塚竜胆:リンドウ科) (Swertia tashiroi)

アケボノソウの仲間で、花弁に黄色い蜜線がつく。花弁は4~6弁。
大隅半島から沖縄本島にかけて分布する。花期は12月で、本州より2カ月遅い。南大隅町辺塚で発見されたので、この名がついた。
学名のtashiroiは、明治時代の内務省役人で初めて八重山列島を学術調査した田代安定を顕彰して牧野富太郎らが献名。tashiroiのつく植物はツツジやスミレなど5種以上に上る。台湾植民の先兵だが、もっと知られてよい人物だ。
 シマアケボノソウ(島曙草:リンドウ科)
 (Swertia makinoane)

沖縄本島から以南にはヘツカリンドウは見られず、代わりに同属のシマアケボウソウが現れる。 私が訪ねた11月末はまだ蕾だったが、ガイドさんが開花した写真(右)を送ってくれた。センブリとは思えぬ立姿、まるでユリのようだ。蜜線はなく、代わりに黒紫色の斑点がある。
 

 (西表島古見岳/11月末、1月)
 
  (1月満開)
   
 スミレは早春に咲く・・・・沖縄ではそんな常識は通用しない。秋でも、冬でも、もちろん春にも咲く。
 リュウキュウコスミレ(琉球小菫)
(Viola Yedoensis var. pseudo-japonica)
沖縄本島やんばるの森/12月中旬
リュウキュウコスミレの白花

与那国島東崎/3月末  
ヤエヤマスミレ(八重山菫)
(Viola tashiroi)
西表島横断道/3月末

スミレと来れば、思い出すのが松田聖子の♪すみれ、ひまわり、フリージア~(「風立ちぬ」(松本隆:作詞)。春に夏の花が入る40年前の不思議な曲だ(古いねぇ~、年が分かるというもの)。沖縄でフリージアが咲いているかどうかはわからないが、ヒマワリの仲間のキク科の花は「憎まれっ子世に憚る」の例え通り、固有種から外来種まで大繁栄している。

イリオモテアザミ(西表薊)
(Cirsium brevicaule)

葉の切れ込みが深く、鋭い棘を持つ。
八重山列島と久米島に分布する固有種。
 

 いずれも
(与那国島サンニヌ台/3月末)
 ↑ヨナグニイソノギク(与那国磯野菊)
  (Aster walkeri)

こちらは与那国島の固有種。 15年前、自生地の海岸断崖地が崩落して、絶滅の危機に瀕したが、現在は少しずつ回復中。このほか、与那国島にはヨナクニトキホコリ(絶滅危惧種)がある。
 オオキバナムカシヨモギ(大黄花昔蓬)
(Blumea conspicua)
 
 高さ1mを超える大型の草。林道わきで見つけ、ガイドさんも「葉はタバコみたいだが、花はキク科で何だろうね」と不思議がっていた。帰ってから調べると・・・
(宮古島除く)種子島以南の南西諸島に分布するヨモギの仲間だった。
 
 (西表島大富林道/3月)
 
   リュウキュウツワブキ
(琉球石蕗)
(Farfugium japonicum var. luchuense)
   
  琉球諸島の固有種。本州のツワブキより葉の形がクサビ形になる。ただ、変異が大きく区別できないものもある。

(石垣島、沖縄県の最高峰、於茂登岳の登山道/11月中旬)
   
 
   テリハノギク (照葉野菊) 
  (Aster taiwanensis)
八重山列島の固有種。葉はそれほどてかっていない。
(西表島古見岳/11月中旬)
   
  外来種では  
 
 タチアワユキセンダングサ (立淡雪栴檀草)
(Bidens pilosa)
 
 江戸末期に観賞用として熱帯アメリカから導入され、高知県、九州南部、沖縄に定着。サトウキビ畑で被害があり、駆除対象の外来植物。
本州のセンダングサ同様、種子には棘があり、これが衣類にくっついて種を運ばせる「ひっつき虫」。沖縄ではサシ草と呼ぶ。通年開花して、種を拡散。家の周りや道路際など、この草を見ないところは無い。
しかし、蝶や蜜を吸う虫にとって、無尽蔵の食料を提供してくれるため、同じキク科のヒヨドリバナと共に、これほどありがたい植物はない。多くの蝶たちが花の周りで乱舞していた。
 
 
タイワンヒヨドリバナモドキ(台湾鵯花擬き)
(Eupatorium formosanum)

フジバカマの仲間。吸蜜しているのはリュウキュウアサギマダラ。本州からアサギマダラが越冬に飛来する。
         (西表島白浜林道/11月中旬)
 

  沖縄は蝶の宝庫でもある。
   
 
 アオタテハモドキ(やんばるの森)  イシガケチョウ(西表島大富)   スジグロカバマダラ(西表島白浜)
   
 ヤエヤマカラスアゲハ(西表島大富)(注)  タイワンキチョウ(西表大富)   ツマムラサキマダラ(西表島大富)
   オオゴマダラ(西表島浦内川)

これでもほんの一部。他にもヤエヤマカラスアゲハやツマベニチョウも見たのだが、なかなか型よく停まってくれないので写せなかった。石垣市の市蝶

与那国島では世界最大の蛾、ヨナグニサンの孵化時期。捕虫網を持った蝶マニアをたくさん見た。
(注:与那国島ではヨナグニサンの捕獲は禁止されています)
(注:ヤエヤマカラスアゲハをジャコウアゲハとしておりました。訂正いたします)

 
      センダン(栴檀: センダン科)     (西表島仲良川上流/3月末)
       (Melia azedarach)
   
  センダングサは葉が木の栴檀の葉に似ていることがから名づけられたが、本家は木。水辺でよく見かける。良い香りがするが、格言にある「栴檀は双葉より芳し」のセンダンは白檀のことで、この木ではない。
 
 

コロナの影響で各地で花見が自粛になり、寂しい思いをした人も多いと思うが、沖縄でも同様に自粛が呼びかけられていた。しかし、沖縄では本土のように花の下での宴会はなく、並木に沿って花を見て歩くスタイル。時期も1~2月で、花は寒緋桜。早いものは12月から咲き始め、開花期が長い。花見での感染リスクは本土に比べて圧倒的に低いはずだが、感染者は多い。どうも、沖縄人の開放的で人(宴会)好きな生活習慣に一因があるようだ。居酒屋はどこもワイ・ガヤで賑やかだった。
草のサクラソウ(桜草)科の花はサクラと同じ色や形(5弁)から来ているが、沖縄ではサクラソウもちょっと変わった姿である。

 
 カンヒザクラ  (寒緋桜:国頭村12月)
 リュウキュウコザクラ(琉球小桜)(Androsace umbellata)

サクラソウ科だがサクラソウ属でなく、トチナイソウ属。ヒマラヤにはたくさんあるトチナイソウ属だが、日本には本種と北海道・東北地方のトチナイソウ(栃内草)の2種しかない。
花は5㎜程度で、大変小さい。

 (与那国島東崎/3月末)
 
 ルリハコベ (瑠璃繁縷:サクラソウ科)
 (Anagallis foemina)

ナデシコ科のハコベと同じ大きさだが、他人の空似。ヨーロッパが原産で、紀伊半島から沖縄の暖地海岸に帰化・定着した。

(与那国島サンニヌ台/3月末)
 
 ハマボッス(浜払子) (Lysimachia mauritiana)
オカトラノオに近い種で、一茎に花弁がいくつもつく。
北海道から沖縄まで、海岸の岩場に生育する。
サクラソウ科の花は有毒なため、家畜や与那国馬も
食べず、繁茂する。時に大きな群落を形成する。
    
  
  (与那国島サンニヌ台/3月末)

海岸近くに咲く植物で有用なのがセリ科。食用になるだけでなく、漢方薬や生薬の材料となる。 
 ボタンボウフウ(牡丹防風)
(Peucedanum japonicum)

青汁やサプリメントなどの原料として、また、おひたしにするなど日常的に食されている。島では長命草の商品名で栽培・販売されている。

 (与那国島サンニヌ台/3月末)
   ハマウド(浜独活)
(別名:オニウド Angelica japonica)
   
食用となるアシタバ(明日葉、Angelica keiskei)の仲間。有毒だとか無毒だとかいろいろと説があるようだが、西表島では葉を天ぷらにして食べているところから、毒はないようだ。食べたことがないので、美味しかどうかは不明だが、民間薬として火傷などで使われていたようだ。
学名のAngelicaとはエンジェル(天使)のこと。食べると、天にも昇るような気持ちになったのだろうか。
関東以南~琉球諸島の海岸に広く分布する。


(西表島宇那利(ウナリ)崎/3月末)

一方、「百害あって一利なし」がタバコ。昔は嗜好品としての価値も高かったのだが、今や、嫌われ者。葉の形が似ているためこの名がついたイワタバコ(岩煙草)にとってはとんだ迷惑だ。西表島では湿った渓谷でひっそりと咲く。
 

ツノギリソウ(角桐草)
(Hemiboea bicornuta)
 →
ミズビワソウ(水枇杷草)
(Cyrtandra cumingii)

いずれも2㎝ほどの筒状の花をつける。この時は最終期で花は1輪しかついていなかった。
ツノギリソウの上唇内には紫色の斑点が付き、ミズビワソウは喉が黄色味がかる。

(いずれも西表島古見岳/11月中旬)
 
これに似た花をチベットで見た。ラサ郊外のデポン寺本堂裏の岩山(標高3800m)で咲いていたイワタバコの仲間だ。 こちらは鈴なりだった。

コラロディスカス・キンギアヌス
(Corallodiscus kingianus)
 
 4月に入ると八重山地方は気温25度を超え、夏を迎える。花たちも夏の装いで客人を迎える。
 アサガオガラクサ
(朝顔柄草:ヒルガオ科)
(Evolvulus alsinoides)

花の直径1㎝のかわいい朝顔。昔の朝顔の柄。星を撒いたよう。
与那国島の固有種。
  

(与那国島東崎/3月末)
 
    ノアサガオ(野朝顔) (Ipomoea indica)
東京では園芸種に席巻され見ることが少なくなった野生の朝顔。多年生で葉はハート形。同種のアメリカ朝顔は一年生で葉は3裂していて、駆除対象となっている。
          (与那国島満万田林道/3月末)
     
 梅干に漬け込んだり、冷ややっこの下に引いたりと、夏に大活躍するのがシソ葉(大葉)。シソ科の花は、いずれも小さくて、色よく、そしてよい香りがするものが多い。
ヤエヤマスズコウジュ(八重山鈴香需:シソ科)
 (Suzukia luchuensis)

下唇を突き出した(またはアッカンベー)形の1cmほどの薄赤紫色の花を付ける。沖縄本島、久米島、与那国島(と台湾)しか分布しない絶滅危惧種。(与那国島の多くの植物は石垣島や西表島でもみられるが、両島に本種はない)。
コウジュとはシソ科の花(ナギナタコウジュ)を乾燥した生薬だが、本種は異なる属である。
学名のSuzukiaは台北帝大の教授であった鈴木重良に由来する。luchuensisは琉球のこと。
      (与那国島サンニヌ台/3月末)
 
   
ヤンバルツルハッカ(山原蔓薄荷:シソ科) 
(Leucas chinensis)

これも1㎝ほどの唇型の花。上唇弁には白い毛が生える。南西諸島では吐噶喇(トカラ)列島以南に分布。種小名にchineがつくことから、台湾や中国にもあるようだ。
与那国島では見かけなかったが、西表島ではあちこちに咲いていた。
 
(西表島宇那利崎/3月末)
 
ヒメキランソウ(姫金瘡小草:シソ科)
(Ajuga pygmaea) 

春先に道ばたや田の畔で見かけるジュウニヒトエ(キランソウ属)の妹分で九州南部から南西諸島に分布。花は1㎝ほどで下唇弁は広い。葉はロゼット状に地面に広がり、照りがある。
姫という名に似あわず、繁殖力が強く、走出枝(ランナー)を出し、節から根を伸ばしてクローン増殖する。
(与那国島東崎/3月末) 
   
シソの実が稔ればもう秋だが、それより前に八重山列島には名前だけ秋が来る。秋海棠(シュウカイドウ)だ。ベゴニアと呼ばれている園芸種は外来種だが、日本で自生するのはここ八重山にしかない。渓谷沿いなど湿った場所に生育する。

マルヤマシュウカイドウ
(丸山秋海棠)
(Begonia lacinata)
(西表島ユチンの滝/11月中旬) 
 
 →
 コウトウシュウカイドウ
(紅頭秋海棠)
(Begonia fenicis)
(与那国島久部良岳山麓/3月末)

 
シュウカイドウの野生種は台湾やフィリピンにも分布し、その基準変種はヒマラヤに産する。
 ベコニア・ピクタ(Begonia picta)


ネパール、カンチェンジュンガトレッキングの帰路、グンサ・コーラに沿った道で、岩から水がしみ出す湿った崖で咲いていた花を見た。上花弁の後ろに毛が付く。葉に模様が入るところからPainted-leaf Begoniaとも呼ばれる。

(ネパール・タプルジュンの北/標高1600m)
 
 
太古の昔、アジアと地続きであった日本。その痕跡が沖縄・琉球諸島には色濃く残っている。大隅半島から台湾に至る琉球弧の島々はその先、ヒマラヤに至る道でもある。
 

最後までご覧いただきありがとうございます。次回は八重山列島の木の花をお届けする予定です。

★ご案内: 「青いケシ大図鑑」に写真を提供しました
今年1月、平凡社から刊行された「青いケシ大図鑑」(著:吉田斗司夫氏)にメコノプシス・タイロリーやメコノプシス・スタイントニー、メコノプシス・トルクァータなどこれまで撮った青いケシ数種の写真を提供し、掲載されました。
この本には90種の青いケシが載せられており、これまで出版された青いケシに関する図書の中では最も多くの種が掲載されています。1980年代からヒマラヤや中国奥地へ分け入り、青いケシなど高山の花々を撮り続けてきた吉田さんの総結集です。吉田さんは2021年4月、ガンのため逝去されましたが、文字通りのライフワークとなりました。ご冥福をお祈りいたします。

画像をクリックすると拡大します。 ご注文は書店か平凡社まで。 (税抜き12,000円) 


★新刊ご紹介: 「未踏峰と三江併流」
これまで数多くチベットの未踏峰の写真を撮ってこられた中村保氏の最新刊です。氏はこれまで「ヒマラヤの東」「深い浸食の国」「チベットのアルプス」を上梓されました。また、写真集としても「ヒマラヤの東 山岳地図帳」「空撮ヒマラヤ越え 山座同定」を出版されていますが、今回はその三部作の完結版です。
チベット・雲南省・ミャンマーにまたがる横断山脈は最後の辺境と呼ばれ、中国政府の入域制限もあり、未知の領域です。30年以上にわたって何度も足を運び、その頂に人を乗せたことのない山々をカメラに収められてきました。山の麓のまだ人の目に触れたことのない花々を求めに行ける日が来れば、最良の道案内になることででしょう。

 ご注文は書店かナカニシヤ出版社まで。 (税抜き8,800円)
(注:日本山岳会会員は15%引きで買えます/6月末まで) 


★予告: 能「山姥」を演じます(コロナ感染拡大で 2022年5月1日に延期となりました)
昨年から新型コロナで多くの方が亡くなっていますが、個人的にも吉田さんなど花友、山友、昔の仕事仲間、そして高校の同級生と多くの友人たちを失いました。彼らの冥福を祈るため、9月26日(日)国立能楽堂での社中の発表会で能「山姥」を舞います。「花を求めて山めぐり」を謡って、花を好み、山を愛した故人たちへの手向けとしたいと思います。日が近づきましたら詳しいご案内を差し上げますが、そのころまではワクチン接種も終わっていることを願っています。

 
 山姥(やまんば)

 師匠の山井綱雄師
(撮影:辻井清一郎氏)

なお、同日能楽堂ロビーにて 個展「青いケシ写真展」を開催する予定です。



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2021.5.17 upload
2021.9.8 revised


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